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ファストファッションのリーダー的存在「H&M」を学んでみよう

ファストファッションの伝道師

2008年9月13日―東京の銀座中央通りに5000人もの長い行列ができました。皆の目当ては、北欧のファストファッションブランド「H&M」。その日は、日本初上陸となる一号店のオープン日であり、朝からTV中継がされるほどの賑わいを見せ、まるでお祭り騒ぎ。前年夏の米国サブプライムローン問題により強まっていた世界的な不況感もどこ吹く風といったところでした。(ちなみに、2日後の9月15日にリーマンが破綻しリーマンショックが起こります)。このとき以降、H&Mをはじめとするファストファッションは日本市場を席巻し、「ファストファッション」という言葉は一般的となり、のちに2008年は「ファストファッション元年」とまで呼ばれるまでになります。2008年9月13日、それは事実上、日本がファストファッションと出会った記念すべき日といっても過言ではないのかもしれません。

強さの秘密は、トレンドをいち早く取り入れた高感度なデザイン性

そもそもファストファッションの起源は1980年代頃にさかのぼります。当時、急速に台頭してきた東アジアのアパレル産業に対し、強い危機感を抱いたアメリカのメーカーたちは経営マネジメントの新手法「クイック・レスポンス」を提唱するようになりました。具体的には、①在庫切れをなくし、②値下げを減らし、③発注から店頭に並ぶまでのスピードをアップさせる、といった手法のことです。なお、現代のQRコードの「QR」は、この「Quick Response(クイック・レスポンス)」に由来します。その後、ファッション業界は、『いかに次のトレンドを正確に予測するか』に全力を注ぐようになりました。なぜなら、「在庫切れ」と「コストダウン」を実現するには、とにかく「大量に作る」しかなく、トレンドを読み間違えると「大量の在庫が余り大損する」からです。しかし、やがてライフスタイルが多様化してくると、消費者も好みが激しくなってきます。そこで、「なるべく売れ残らないようにベーシックな商品を大量に作ろう」と取り組んだのが、GAPやUNIQLOといったブランドたちでした。対して、まったく違った進化の道を歩んだのがH&Mです。取った戦略は、「大量生産はやめちゃって、それでも安くてオシャレな商品を作ろう」という驚くべきもの。ベーシックではなく、トレンド重視。少ない生産量で、安さとデザイン性を両立させ、業界の常識を覆したのです。

毎日、旬なデザインの新商品がショップに届く

会社の歴史は1947年、時計と文房具の専門店を経営していたアーリング・パーション氏が、スウェーデンのヴェストマンランド県ヴェステロースにて婦人服店「ヘネス」を創業したことにより始まります。1964年にはノルウェーに進出し、1968年にストックホルム進出とともに狩猟用品メーカー「マウリッツ・ウィドフォース」を買収。それを機に社名も現在の「ヘネス・アンド・マウリッツ(Hennes & Mauritz )」へ改名しました。それからは総合アパレルとして着実に成長を遂げ、1974年に株式上場します。さらに1998年にフランスへ、2000年にアメリカへ進出し、この頃、世界的に「ファストファッション」という言葉が使われるようになったのだそうです。デザイン性の鍵を握るのは、ストックホルム本社にいる約100人のデザイナー、パタンナー、バイヤーたち。彼/彼女らが世界各地のトレンドを見極めて、商品企画とデザインを一手に担当しています。なお、H&Mは自社工場を持っていません。商品は、「世界の縫製工場」とも呼ばれるバングラディッシュなど700カ所の工場で生産され、1日平均1300点の新商品がお店に投入されていくのです。年間のアイテム数は、じつに50万点にもおよびます。少数生産なので売り切りゴメン。追加生産はないため、欲しいものは即買いが基本です。ちなみに大阪の戎橋店の看板には、「毎日、新しいファッションを入荷」と掲げられていました。

トレンドの後追いではなく、トレンドを作る

H&Mの驚愕すべき点は他にもあります。それは超一流の世界的な大御所デザイナーたちと次々とコラボレーションを行なっていることです。2004年、CHANELやFENDIのデザイナーとして知られるカール・ラガーフェルド氏とのコラボを発表したのを皮切りに、その後もステラ・マッカートニー氏(歌手ポール・マッカートニー氏の娘)やヴィクター&ロルフ、歌手マドンナ、コムデギャルソン、ジミーチュウなどとコラボアイテムを発表しました。たとえばカール・ラガーフェルド氏デザインのジャケットなら、通常30万円といったところですが、コラボアイテムでは8000円~1万5000円程度。ジミーチュウでは数万円~数十万円のものも、わずか数千円~1万円で手に入ります。では、いったいなぜこんなことが可能なのでしょうか。理由は、デザイナーたちの言葉にも表れています。COMME des GARCONSのデザイナー川久保怜氏は雑誌の取材で「これまでコムデギャルソンを知らなかった人に手にとってもらうことに興味があります」というようなことを語っていました。ステラ・マッカートニー氏も「H&Mの仕組みなら値段を下げて普段買えないような人でも買っていただける」と。たしかにコラボ商品なら、素材の質が少し落ちても、販売店が増えても、自社ブランドのイメージに傷をつけず、販売することが可能です。さらに10億円以上というH&Mの広告費も当てにできます。デザイナーにとっても知名度を上げる良いチャンスとなっているのでしょう。そのほかにもコラボで初めてメンズを手がけたマシュー・ウィリアムソン氏のように、新しい分野のチャレンジに役立てるケースもあるようです。超一流ブランドと手を組み、手ごろな値段から多くの人々に支持されるH&Mは、ストリート主導の時代においてファッションリーダーとしての地位も確立していると分析する専門家もいます。

社会貢献に対する高い意識

ファストファッションは、値段と品質から、どうしても「使い捨て」になりがちです。そのためH&Mは、衣料品回収とリサイクルをグローバル規模で取り組んでいます。2012年12月には、48カ国の全店舗で実施して話題になりました。さらに2020年までに綿原料をすべてオーガニックコットンやリサイクルコットンに切り替えると発表しています。また、フェアトレードにも意欲的です。生産工場は人件費の安い国が多いですが、過酷な労働条件のもと搾取されたのでは働く人が救われません。そこで取引工場に調査員を派遣してフェアトレードを支援しているとのこと。

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